黒が黒に見える!

#2

RETISSAシリーズ(民生機器)(以下RETISSAと略す)の網膜投影技術をご体験いただいた方に、その感想を伺うインタビューシリーズ、第2回をお送りいたします!

―自己紹介をお願いします。

 盲学校の教員をしています。あと数年で40代とお別れの年齢です。
 中学1年生のころ、スティーブンス・ジョンソン症候群という病気になりました。全身の皮膚が炎症を起こす病気で、眼の角膜も炎症を起こしました。その後、全身症状は回復したものの、後遺症として角膜混濁が残っている状態です。両眼とも視力が悪くて、右眼も左眼も0.02です。見え方が左右で違うため、両眼でもモノを見るのが難しいです。いまは右眼を使って生活しています。
 角膜の移植手術は左右2回ずつしています。付随する手術はここ2~3年だけでも4、5回はしていますよ。でも、手術のたびに視力は一時的によくなるのですが、通常であれば移植した角膜の透明性は持続するはずが、この病気は透明な状態が長く続かないんです。ある意味、はっきりとものをみたことは病気以来ないですね。

―どういった見え方でしょうか。

 両方とも濁っているのですが、右眼の方は濁り方が比較的均一です。お風呂の曇った鏡を見ているような感じでしょうか。一方で左側はムラがあります。見えるところは右目より見えるのですが、それ以外が歪む感じです。

―普段はどういった生活になりますか。何か福祉用具は利用されていますか。

 眼鏡はかけているのですが、実は度が入っていなくていわゆる伊達眼鏡です。矯正をいれても見え方はあまり変わらないです。眼にモノが当たらないように保護する意味でかけています。また、モノが二重に見える「複視」という状態になるので、左眼の視力を遮断するためのレンズを入れています。
文字を読むときは拡大読書器や拡大鏡(ルーペ)、それにタブレットを使うことが多いですね。

 拡大読書器は卓上型です。家や職場にそれぞれ置いて、使っています。ポータブル型の拡大読書器は、今は持っていないですね。仕事柄、書類を読み書きすることが多いのですが、その用途には使いづらいという印象があります。代わりにスマホのアプリを使うときもありますよ。多少性能や機能に制限があっても用は足りますし、スマホに加えてポータブル型を持ち歩くのは大変ですからね。
 ルーペは、買い物で値札を見るときなどに7倍のものを使っています。さらに拡大するために2枚重ねで、というほどのシチュエーションはあまりないですね。持ち帰れるものなら家の拡大読書器で見ますし、スマホのカメラで撮影しておく、ということもあります。

―文字を書くときなどはどうされていますか?

 記入する用紙が手元にある場合は卓上の拡大読書器です。これが一番多いケースですね。外で書かないといけないときはサインガイド(黒い紙に枠が抜けていて書く部分がわかりやすくなるもの)を使っています。でも、記入が必要な書類は極力手元に取り寄せて、拡大読書器を使えるように準備しています。ただ、銀行窓口などは対応していないことが多くて、最近はネット銀行しか使わなくなりました。

―不便はありますか?

 左側はやはり見えにくいです。右眼も鼻側の上に若干視野の欠損がありますので…。歩いていて街路樹や、急に出てきた人にぶつかりそうになることはあります。だから、保護の意味で眼鏡をしています。

―食事などはいかがですか?

 特に大きく不便はないのですが、妻が彩りよく盛り付けてくれてもきれいに見えないのは残念ですね。食事の時は一緒にいる家族や友人がメニューや内容を説明してくれるのですが、特別な機会の料理などはスマホで写真を撮って、拡大して見ることもあります。
 あとは、そうですね…刺身を食べるときにワサビの位置がわからない、ということがあるのですが、そういったときも写真で確認します。言葉で説明されてもわかりにくいことが多いですし、せっかく見える目なので自分で見たいと思っています。

―体験していただいた時の感想を教えてください。

 かなり初期のころから体験させてもらっていますが、当初は期待が高かった分、いま一歩というかあと十歩ぐらいでしたね(笑)。でも、最近のものでは色合いなどがとてもよくなってきました。
濁りがある分、すべての色がくすんでしまうんです。でも、例えば手術するとしばらくは黒が黒に見えるときがあるんですね。RETISSAを使うと、その黒が感じられるんです。赤や青などの原色も鮮やかに感じられました。

―木々の緑がはっきり見えるとおっしゃっていましたね。

 そうですね。写真とかでもはっきり見えなくて楽しみきれないことがあるのですが、RETISSAなら鮮やかに見えるかもしれません。テレビなども周りの人と一緒に楽しめるかもしれないですね。私のような角膜疾患の方が広く使えるようになっていくとよいと思います。

―逆に、改善すべき点は何でしょう。

 ゴーグルタイプの機器(RETISSA Display)で、有線でタブレットの映像入力を体験したのですが、見た目がすこし「ごつい」印象でした。
 視覚障がい者にタブレットが普及した要因の一つは、周りの人と同じものが使えるということなんです。異質なものを使うことには抵抗があるんですね。見え方が良くなるというメリットがあっても、周りに違和感を与えてしまうかもしれないという精神的なハードルが出てしまいます。スマホはポータブル拡大読書器より映像が悪いかもしれませんが、他の人と同じもの、という点がいいんです。
 単眼鏡は一般的ではないかもしれませんが、小型なので違和感は少ないと思います。その意味でRETISSA Displayは全体的にもっとコンパクトになるといいですね。とにかくシンプルで簡単に使えるものがいいと思います。もしかすると手持ちのほうが、違和感が少なくなるかもしれません。

―ほかにはありますか?

 カメラを入力の媒体として使えると、とても便利ですね。タブレットの映像であれば自分の眼でもある程度見えますから。
 改良点として画質の向上という面もあるのかもしれませんが、4Kや8Kのような高画質になったところで、あまり差を感じない可能性があります。それよりも見える範囲が広いほうがいいですね。多少画質が悪くても、大きな画面になれば役立つことは多くなりそうです。また、黄斑部(中央部)だけではなく、違ったところ(周辺部)に投影できるといいかもしれないです。

―先ほど「手持ち」とおっしゃっていましたが。

 ゴーグルタイプだとずれてしまうこともありますし、手持ちでもいいような気がしました。片手にもって片手で筆記する、みたいなことはできるのではないでしょうか。
 あとは、白い紙がすこしまぶしく感じることもあるので、白黒反転の機能もあるといいですね。

―様々なご助言ありがとうございます。弊社もいろいろと開発を進めていますので、ぜひ今後にもご期待ください。

 ぜひよろしくお願いします。こうした病気の人はそれほど多いわけではなく、知られていないことが多いです。いままでの福祉用具のように拡大するだけではなく、網膜投影という違う形式の技術があるというのは期待できると思っています。

―本日はお忙しいところありがとうございました。

*このインタビューは2020年5月22日にオンラインで行いました。
*個人の感想です。見え方には個人差があります。また、ご所属機関やお立場を代表するものではありません。
*RETISSA Display IIは医療機器ではありません。特定の疾患の治療や補助、視力補正を意図するものではありません。

ご協力いただいた方

岡島様(40歳代)

ご職業

盲学校教員

眼の状態

角膜混濁(スティーブンス・ジョンソン症候群)

ご体験いただいた製品

RETISSA Display II