RETISSAシリーズ(民生機器)(以下RETISSAと略す)の網膜投影技術をご体験いただいた方に、その感想を伺うインタビューシリーズ。今回は、2004年アテネパラリンピックの、男子 400m 自由形リレー(視覚障害 49P)において銅メダル、さらに400m メドレーリレー(4位)、100m 平泳ぎ(4位)、100m バタフライ(8位)と3種目で入賞という輝かしい記録をお持ちの、杉内周作様にお話を伺います。
―経歴を聞かせてください。
愛知県出身です。小学生の時水泳を始めました。得意種目は平泳ぎです。中学・高校の水泳部に所属し、スイミングスクールにも通っていました。中2の頃が一番伸びたと思います。高校卒業後も仲間とマスターズ水泳の大会に出ていました。
地元の会社に就職し、車で営業する仕事をしましたが、網膜色素変性症と診断されて生活が大きく変わりました。2000年のシドニーパラリンピックをテレビで見たことをきっかけに、障がい者水泳の競技生活を始め、アテネパラリンピックを目指すことになりました。競技水泳を引退してからは障がい者水泳チームのコーチをしながら、後輩の指導育成を行っています。
―眼の疾患についてお聞かせいただけますか。
網膜色素変性症と分かったのは、車で営業していたころです。見え方については特に深刻な問題は感じていませんでした。視野の真ん中は良く見えていて眼鏡をかければ視力は1.5出ましたし、裸眼で運転免許も取得できていましたので。ところが職場の駐車場で運転中に、何度か他の車に擦ってしまいました。上司から冗談半分に、「見えてないからだ。眼科へ行け。」と言われるままに眼科を受診したところ、網膜色素変性症と診断されました。26歳でした。網膜色素変性症のことを全く知らなかった私は、お医者さんに「視野が徐々に狭くなってきて、最終的に見えなくなるケースもある。車の運転はやめてください。」と告げられ、ショックでした。
子供の頃を思い返せば、野球やサッカーなど球技は普通にやって下手くそでしたね(笑)。暗い所も苦手でした。学校の視力検査で引っ掛かり、大学病院で視野検査したこともあったので、「自分は眼が弱いんだな」とは思っていました。また、いつだったか学校の保健体育の授業で、人の視野は約180度と教わり、自分の視野をはかったら60度程度しかなかったということがありました。そのとき先生は、「個人差はあるよ」おっしゃいましたので、「個人差なんだ」と思っていました(笑)。
―日常生活について聞かせてください。困っていることはどんなことですか。
仕事は、パソコンで文章を読んだり書いたりすることが多いです。画面を見る時間が長く、疲れるので、余暇には文字を読む気力はなくTVゲームをしたりします。ゲームの時は画面が大きすぎると見づらいので、50インチくらいの画面のテレビを使っています。
本を読むことはあきらめていますね。以前よりは本を読みたいという欲求が強くなってきていて、実際に本を買ってきたのですが、途中でやめてしまいました。見るのが「面倒くさく」なってくるのです。(※1)
講演や水泳教室の指導などで外出するときは、白杖をついて、公共交通機関で出かけます。あらかじめ地図で調べて、一人で出かけますが、渋谷駅乗り換えなど込み入ったところでは、近くにいる人に道案内をしてもらうこともあります。Googleマップで案内をもらうことが多くなりましたが、コントラストが低いので、建物と道の区別がつかず、文字も拡大できないので、とても見づらいです。改善してほしいと思っているのですが、なかなか伝わらないんです。オリジナルのシンプルな地図の方が見やすいです。
視野の中心は良く見えていたのですが、最近は見えている部分が少し見えづらくなってきています。
―日ごろお使いの補助具は何ですか。
富士通のタブレットを使っています。ぱっと出された書類を見るときなどは、タブレットを取り出して写真を撮り、拡大して見ます。タブレットは、持ち運びに便利で、使用方法も簡単なので重宝しています。スマホを同様に使うこともあります。眼鏡や拡大読書器・ルーペなどは使用していません。
―杉内様は、8月3日に弊社が能楽堂で行った、RETISSAを使って能と狂言を鑑賞する
イベントに参加してくださいましたが、その時のことを聞かせてください。
舞台のライトの当たっている明るい部分は裸眼でも見えました。演者の髪の色や、どんなことをしているかは分かります。RETISSAをかけると、それがくっきり見えました。目の前の小さいテレビがはっきり見えているという感じです。すると、もっと見たいという欲求がわいてきて、手元のスマートフォンで操作し拡大して見たりしました。(※2)
―RETISSAを使ってのご感想をお願いします。
初めてRETISSAを渡されたとき、私はせっかちなので、「はいはい」とすぐにかけちゃったんです。まだ、テスト動画の用意ができていなくて、Windowsパソコンの初期画面が映っていたのですが、これに感動しました。以前見えていたものが、久しぶりに『くっきり』見えた。心の中で「ああ、久しぶりに物を見たなぁ」と思いました。靄が晴れたというか、2~3日ぶりに歯を磨いたみたいな(笑)すっきり感がありました。今はRETISSAのデモ機を毎日使っているので、慣れてしまいましたが。
(実際に使って頂いている様子)
―カメラ付きRETISSAのデモ機を使ってのご感想をお願いします。
主に紙の文章を読むときに使っています。雑誌を読むときや、郵送されてきた資料、例えば、税金の資料とか、保険の資料とかを読むときに重宝しています。ハンズフリーで且つカメラがオートフォーカスで、見たいものを見られるのが便利です。
―RETISSAの今後にどのような期待をお持ちでしょうか。
カメラ付きRETISSAの完成を楽しみにしています。(※3)
RETISSAがどの程度助けになるかは、疾患によって、またその程度によって異なると思うので、多くの人が試せるようになるといいと思います。
僕は、障がいを本当の意味で「克服」できた人はこの世に一人もいないと思っていますが、RETISSAは眼に障害があると診断されてショックを受けた人が立ち直る、手助けになると考えています。たとえ眼が悪くなっても、こういう道具を使えば元の生活に近い生活が、100パーセントでなくても得られると分かれば、そして同じ障がいを持つ仲間と繋がれれば、生活向上の最初の一歩を踏み出せると思います。網膜色素変性症は進行性の病気なので、悪くなっていくことを受け入れなくてはならない。進行について諦めに近い覚悟をしていましたが、最初にRETISSAをかけた時にWindowsの画面を見られた感動は忘れられません。
―ありがとうございました。
※1:早速、タブレットやスマホの電子書籍を読むことができる、最新RETISSA Display IIをお使いいただくことにしました。
※2:能楽堂のイベントでは、舞台をテレビカメラで撮影し、その信号を客席にあるスマートフォンを通してRETISSA Display IIに送り、ご覧いただきました。
※3:RETISSA Display IIのアクセサリーカメラは、すでに製品化されています。
*個人の感想です。見え方には個人差があります。
*RETISSAメディカルをのぞくRETISSAシリーズは医療機器ではありません。特定の疾患の治療や補助、視力補正を意図するものではありません