人の顔を見分けられます!

#11

RETISSAシリーズ(民生機器)(以下RETISSAと略す)の網膜投影技術をご体験いただいた方に、その感想を伺うインタビューシリーズ。今回は、トライアスロンの選手で、ブラインドサッカーのコーチの秋葉茂様にお話を伺いました。

―御経歴をお聞かせください。

 茨城県出身48歳で、千葉県在住です。パラトライアスロン PTVI(視覚障害・弱視)選手です。
 高校から盲学校に通いました。盲学校で様々な視覚障害者スポーツを経験したのち、社会人として働き始めてからブラインドサッカーB2/B3クラス(弱視クラス)に出会いました。2011年からB2/B3クラス(ロービジョンフットサル)日本代表として約5年間、日の丸を背負いました。
 2018年からはパラトライアスロンに本格参戦しています。 ちょうど、パラトライアスロンが正式種目として採用されたころでした。ブラインドサッカーと並行して単独でトライアスロン大会にも出場していた私は、小学校の卒業文集に、『オリンピックで金メダルを取りたい』という夢を書いたことを思い出し、一念発起しました。パラリンピック東京大会出場を目標にトレーニングに励んでいます。ライバルは一回り以上も若い選手、元パラリンピックのマラソン金メダリストなど強敵ぞろい。でも、私にはブラインドサッカーで鍛えられた身体があります。来年が楽しみです。
 現在は、アクサ生命保険株式会社に勤務し、企業内マッサージルーム「リラクサ」のセラピストとして働いています。withコロナの取り組みとして、今社内における「健康経営アクサ式」の普及啓発を目指し、「オンラインストレッチ」という従業員向けの新たなトレーニングプログラムの開発にチャレンジしています。社内では私が視覚障害者であることを広く理解いただき、色々とサポートをいただいて安心して仕事をしています。感謝の気持ちを忘れずにアクサ生命の皆さまの支えになれたらと思っています。

―眼の状態と経過をお話しくださいますか。

 見えにくくなったのは、小学校の低学年の時です。視力測定のあと「眼鏡を作ってください」と言われたのをきっかけに、近くの眼科に通いましたが、数年経って先生から「どうやらうちではないね。」と大学病院を紹介されました。そして、「スターガルト病」と診断されました。
(編修部注:スターガルト病とは、早い人では学童期から、徐々に視細胞が損傷されていく遺伝性の病気です。視野の欠損、色覚異常、歪み、ぼやけが主な症状です。目の中心部が見えづらくなることもあり、病気の進行と共に、見えない範囲が広がっていきます。「希少疾患(きしょうしっかん)」と呼ばれる患者数の少ない病気で、罹患するのは8千~1万人に1人、患者数は、米国、欧州、日本併せて15 万人弱と推定されています。)

 見え方は、中心暗点があり、それがだんだん広がってきています。中心部分の視力はゼロ。左右眼の視力差については、右眼の方が見やすいので、全て右眼で見ている感じです。

―日常の生活の中で、困ることはどんなことですか。

 人の顔はわからないので、挨拶されたときには名前を言ってもらいます。
 駅の構内での移動が難しいです。人が多い中で、歩きスマホの人などに突っ込んでこられると、僕にとっては、気づいた時には目の前に人、という感じで避けきれないことがあります。
 慣れていないところに外出するときは、事前に予測をして行きますが、初めての場所には、だれかと一緒に行く方が良いです。標識も見えないため、100%迷うということが分かっていますから。
 役所や銀行で、指定の場所に記入することが厳しいので、代筆が認められている場合はお願いしています。

―日頃はどんな補助具をお使いですか。

 仕事場でも自宅でも据え置き型の拡大読書器を使っています。倍率は10倍以上で、文字数でいうと、横方向に5~6文字が同時に見える大きさです。
 スマートフォンは、字を大きくして、顔を画面に近づけて使います。送られてきた写真など、色が分かると内容が判別しやすいので、白黒反転は使わずに、そのままの色で見ています。色を含めて理解します。
 単眼鏡は中学生の頃、黒板の文字を見るときにだけ使っていました。高校では、黒板は近寄って見ました。
 仕事では、パソコンの画面を見ることが多いです。打合せの資料などの印刷物はルーペで見ます。事前に貰える資料は、PCで拡大して読みますが、あまりにも小さい文字は見えないので、「見えません。」と言うこともあります。
 在宅勤務の時は、ノートパソコンを使います。本社では、デスクトップパソコンを使っていて、モニター画面も大きいです。入力はタッチタイピングです。パソコンのバージョンによっては白黒反転しています。Windows10では、画面が明る過ぎるので、白黒反転したほうが見やすいです。

 白杖は、社内では慣れているので持ちませんが、ほかの場所では、特に夜などは、足元の段差が見えていないので必要です。

―前回は2018年1月23日に、RETISSA Display をお試しいただきました。今回は視野角が60度と広くなったLKSと現在試作中のカメラ付きLKS(写真)をお試しいただきました。今回のご感想をお願いします。

 始めにパソコンから入力したアルファベットの映像をLKSで見ました。画面に描かれている文字はAからLまで全て読めました。背景は、白かグレーかで、文字の色も分かります。少し小さくした文字も判別できましたし、カラー動画の海の映像も、亀やイソギンチャクがよく見えました。
 僕にはこれがすごく見やすいです。アルファベットの文字も前よりわかりやすかったです。
 カメラ付きのLKSは、普通に覗いただけで、5m以上離れている人の顔が見えました。誰だかはっきりわかります。普段、人の顔はわからないのですが、これなら、倍率を上げれば分かります。僕の場合使いやすいのは、右眼ですが、左眼でも試してみたら、右眼と同じ様な見え方だと思いました。
 片手に補助具をもって、なにかすることは、単眼鏡やルーペで慣れているので、それほど不自由は感じません。
 カメラの倍率の効果は結構すごかったです。すぐに使えそうです。仕事で何か読むとか、片手で持って文字を書くとかできるのではないかと思いました。簡単に固定できて、手元が見えれば、弱視で僕ぐらいの視力の方には、書くときのサポートとしても申し分ないと思います。

―今日は天気が良いので、戸外の景色もカメラモデルで体験していただきました。

 日差しの感じ、光線の具合が分かるのが嬉しいです。これなら、野球やサッカーなども観戦できます。

―LKSへの期待などお話しください。

 駅の表示板などを見るのに使いたいと思います。ズームの機能があれば、時刻表も見られるし、改札でも使えます。もう少しワイドになって視野が広くなれば物を把握しやすくなると思います。網膜色素変性症の方だと、視野が狭くなっているのでワイドにする効果は大きいと思います。
 RETTISAを使ってみて思うことは、僕と同じぐらいの年代、つまり50代より下の世代の人で視覚が不自由な方は、こういう眼鏡に興味を持ってトライすると思います。高齢の方の場合でもかなり視覚が不自由な方は興味を持つと思います。しかし、視覚障害があってもあまり不自由を感じていない方にはハードルが高いかもしれません。

―ありがとうございました。

【技術者チームより】

 LKSは手持ちタイプで、眼鏡型のようにハンズフリーにはなりませんが、見たいときに使うという発想だとこのモデルが馴染みやすいと思います。眼鏡型もよいですが、LKSは、視野が広いことが特徴です。

 カメラ付きLKSというのは網膜投影系と市販のデジカメを合体させたものです。カメラのファインダーをのぞくように見ていただきます。現在カメラは一眼レフの大きさですが、小型化して使いやすくしていきます。デジカメのように、焦点が合わない時はシャッターボタンを半押しするとピントが合いますし、明るさも自動で調整されます。

 最近のデジタルカメラは、スマホのカメラと差別化するために、性能がとても良くなっています。この長所は、フリーフォーカスの投影系との組み合わせで、眼の前側の疾患の方に大きな効果をもたらします。一方で、網膜疾患の方のためには、視野角を広げ、ズームの倍率を上げることで、見易くしています。

 網膜投影技術を使うと、網膜の中心付近だけでなく周辺視野にも、均一に画像が描けますので、網膜の欠損していない部分で画像を見ていただくと良いと思います。さらに今回のLKSは視野を60度まで広げましたので、さらに画像をとらえるやすくなっていると思います。

 さらに広い範囲を見たい場合は、広角レンズつければ視野は広がりますが、その分画像は小さく縮小されます。

*このインタビューは2020年10月7日に行いました。
*LOG(レーザオペラグラス)/カメラ付きLKS、いずれも開発中の名称です。
*個人の感想です。見え方には個人差があります。
 またご所属機関やお立場を代表するものではありません。
*RETISSAシリーズ(民生機器)は医療機器ではありません。特定の疾患の治療や補助、視力補正を意図するものではありません。

ご協力いただいた方

秋葉茂様(48歳)

ご職業

アクサ生命 セラピスト

眼の状態

スターガルト病 
視覚障害者の一種3級
若年性黄斑変性症

ご体験いただいた試作機

LOG(レーザオペラグラス)/カメラ付きLKS